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もうふつうの恋愛が出来なくても仕方ないとユカリは思い始めていた。
男に抱かれて、何度も逝った。
その度に何もかもがどうなっても良いと思えた。
帰り道、電車に揺られていると、サラリーマンが何度も見てきた。
つり革を持つユカリは、窓に映った自分の姿を見つめた。
胸元の大きく開いた服から谷間が覗いていた。
身体が少し動かせば、胸が少し遅れて弾んだ。
ふとサラリーマンに目をやる。
寄っているのだろうか、目元が赤い。
腕組みをして、居眠りをしていた。
きっとこの男にも待っている女がいる。
子供も居るかもしれない。
私も何かよりもずっと幸せなのだとユカリは思った。
胸が大きいだけで、女としては何も利点がない。
肩はこるし、姿勢は悪くなるし、偏頭痛もある。
洋服のサイズは合わないし、下着も可愛いのが少ないし値段も高い。
「嗚呼……」
だからあの店で働いているのは楽しかった。
学生服にしても、事務服にしても、看護師や白衣にしても、胸の大きい事を客が喜んでくれた。
ピチピチになって、とても表を歩けない位なのに、それを見て喜んでくれた。
それまでのコンプレックスが全て自分の長所になった。
でも世間に戻れば、また同じ事だった。
「あのお店、辞めようかな……」
不意に働き出したドラッグストアを辞めたくなった。
もともと長くあの店で働くつもりもなかったし、美容部員にも憧れはなかった。
「これから、どうしょう……」
ユカリは自分が川を流れていく枯れ葉に思えた。
時に川岸に引っ掛かり、時に流された。
何処に行くのかも自分には分からない。
これからも、その先もそうなのだと思った。
「ン?」
まるでそれを待ち侘びていたかのように、ユカリは鞄からスマホを取り出した。
「今から? イイよ! じゃあ後で」
気のない返事をして電話を切った。
思わずユカリはハミングした。
「何でだろう?」
窓に映った自分に問い掛けた。
「彼に恋してるの? まさか……」
認められなかった。
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