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思えば映画館で映画を観るのは久しぶりだった。
この頃はテレビで再放送を観ることもない。
「この映画はコメディータッチみたいなんです。予告をテレビで観て……」
映画館のカウンターで前売り券を係りの人に差し出し、サラがケイトを見上げながら説明した。
「ご希望の席を承りますが……」
「どうしょうか?」
映画館には十個のスクリーンがある。
二人が観たい映画は、その中でも一番広い一番スクリーンで上映される。
既に大半の座席が予約済になっていた。
「この辺りはどう?」
「H25と26ですね!」
売り子から入場券を受け取り、入場時間が来るまで二人はその場を離れることにした。
「ほら、あの列!」
「凄いね」
よく見ると、前売り券を持たない客たちが長い列を作っていた。
「この映画、売り出し中の若手俳優が出ているから特に女の子に人気なんですよ」
それはケイトの知らない俳優だった。
「サラちゃんも好きなの?」
「私は脇役の人がタイプです。ねぇ、ケイトくんは好きな女優さんとかいますか?」
二人は映画の看板の前で立ち止まった。
「この女優さん、私、好きなんです。性格も良いし、歌が上手いんですよ」
もしも来年、いや再来年、ケイトとサラが大学生になり、今日の事を話す時が来るのだろうかと考えていた。
「私、クラスの男子から告白されているんです。返事をすることになっていて……」
ポスターを見たまま、サラが話し出した。
「ケイトくんが止めろと言ってくれたら断ります」
「そんな事は言えないよ」
「ですよね。私の一方的な片思いですよね?」
今はまだ、サラを抱きしめる訳にはいかなかった。
「好きな人がいるんですか?」
「ン……」
ケイトは答えられなかった。
心の中でモヤモヤした思いが残っていた。
「一番スクリーン、入場開始になったみたいです」
サラが受付けに列ぶ人を見て、教えてくれた。
「何か飲み物でも買おうよ!」
サラを誘った。
きっとサラは、もっと品のあるステキな女性になるだろう。
「迷っちゃうなぁ……。優柔不断なんです」
人差し指が、メニュー表の上を行ったり来たりした。
「コーラを一つ。サラは?」
「エエ? 私も同じもので」
ケイトは思わず呼び捨てにしたことを自分でも驚いた。
サラは何故だか照れ臭そうにしていた。
「サラちゃん!」
「呼び捨てでイイですよ。サラって……」
ケイトは頭を掻いた。
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