4人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいよ。使ってよ!」
ある日、ユカリが控え室の壁に向かい話していた。
「おはよう!」
そこにカナコが入ってきた。
「うん。だから好きに使っていいよ。うん、考えとく。もうバイト始まるから切るよ!」
何時もはギリギリに来るユカリが、控え室で電話でしているのをカナコは初めて見た気がした。
以前からカナコは、ユカリの普段見せない闇を感じとっていた。
決して裕福だったとは言えないカナコは、学生時代から生活費を稼ぐためにアルバイトをしていた。
塾にも行きたかったし、ほしい物を買いたいとも思っていた。
けれど、それはみんな食費や支払いに消えていく。
今はもう思い出したくない記憶だった。
手荷物をロッカーに入れて、カナコは出来るだけ素知らぬ顔で制服を手にして更衣室に向かった。
「カナコさん、おはようございます!」
「おはよう。着替えてくるわね!」
そう答えると更衣室のカーテンを閉めた。
カナコが履いていたズボンを脱ぐ音がユカリに聞こえてきた。
また一人に戻ってユカリは 心を落ち着けようとため息をついた。
先日、買取店に箱に入ったままのブランド品を全部売った。
かなりまとまった現金が手元に入って来た。
それがどんなに高額でも、ユカリの身体を売って稼いだ金だ。
例え今は何ともなくても、身体や心はそれだけ傷付いていた。
もしもカナコの娘の様に、汚れのない思春期を送れたのなら心は傷つかないだろう。
「私が誰かを好きになれるはずないじゃない!」
心の中で何度も自分に言い聞かせた。
最初のコメントを投稿しよう!