04章 青年期

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部屋の中央に位置する2重の鳥かご、その豪華な天蓋付きベッドの中の住人が起きだした気配を察知して、女奴隷たちは動き出す。 1人は食事の用意、1人は掃除の用意、1人は着替えの用意。 しかし、そんな動きを見せる彼女たちの方ではなく、ベッドの横にあるもう一つの小さなゲージへ人影は移っていった。 大きな鳥かごの中にある、ベッド付きの鳥かご、その中のベッドの横にある小さな鳥かご。 一番小さな鳥かごは、人が1人ゆったりと座って入れる程度の大きさ。中にあるのは猫足バスタブ。そう、ここは簡易浴槽。籠にかけられたレース状のカバーが唯一の目隠しで、膝下付近まで伸びた長い髪と、スラリとした身体の影が透けて見える。 僅かに魔力が動く気配がして“チャプン”と水がはねる音が聞こえると、彼女たちは頷きあって青い飾りのついている扉の方へと向かった。 此処からは男奴隷たちのエリア。ガチャリと開くと、その先の扉は既に開かれていて、01番と02番が立っていた。 「起きましたか」 「はい、今しがた」 「食事は?」 「これからです。今は入浴を」 「ってことは…」 扉と扉の間の空間に、お互い立ち入ることはできない。数メートル離れたままの会話だが、これはいつもの事である。 そんな彼らが期待して暫く無言で待っていると、望んだものが聞こえてきた。 「~♪」 男性にしてはやや高めかもしれないが、確かに声変わりを終えた青年の声。 トップとしての縛りで、主が許可した人物以外との会話ができない彼は、身の回りの世話をしてくれる女奴隷とも話が出来ない。 そのためいつしか、彼は歌を歌うようになった。 フレーズも独特で、歌詞もよく分からないけれど、だからこそ誰も真似ができない。彼が生きている証。 聞きほれるように01番…レイは目を閉じて、02番…リンジーは耳を動かし尾を揺らした。 ブッシーキャットのクラウン。 通称『黒いカナリア』。 その歌声を聴きたいがために、訪れる客も少なくない。 そんな彼の歌声が開かれた扉から下の階へと降りていく。 3階で留まる歌声は、聞く人の手を止めさせ、無視できないほどの魅力がある。 毎日このためだけに扉を開ける01番と02番。 2人はいつもと変わらない元気そうな声色に安堵して、互いに顔を合わせて笑んだ。
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