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俺の疑問に01番は苦虫をかみつぶしたような顔で腕の中の96番の彼を見つめた。泣き疲れて眠った彼はどこか苦しそうな顔をしているように見える。
…っていうか、いつまで抱きしめてるんだよ。羨ましいっつーの。
寄越せ、と言う変わりにヒョイと距離を詰めたら、01に嫌そうな顔をされた。なんだテメェ、やんのかコラ。
「…詳しくは知らない。だが、彼は幼いころから無理やり男どもの性欲処理に使われていたらしい。おそらく笑顔がこの子なりの鎧なのだろう」
「はぁ!?幼いって、今も十分ちっちゃいじゃんか。これよりも前からって事かよ!?…こいつの親は何してんだ」
「捨てられたのか、死別したのか…俺から尋ねたことはない。ただ、そういう生活をしていたせいか、人の顔色を読むのが上手で、本音をうまく隠してしまうんだ。下手に機嫌を損ねたら、害されると思っているのかもしれない」
「害される…暴力?」
「…おそらく」
全ては推測にすぎない。だが、あの謝罪の仕方は尋常じゃなかった。
全力で許しを請う姿に…思わず表情が歪む。あのような謝罪が身についてしまうような、状況に陥っていたという事なのだろう。
そしてそれは、簡単に許されたようには思えない。
痛みに怯え、でも痛みを避ける術を熟知していた。
血も見慣れているようだった。
「俺たちの殺気が、クロに嫌なことを思い出させてしまったのかも…」
「嫌な事…。なぁ、クロって…96番の事?」
やってしまったという顔で96番の頬を撫でる01番。それを見ながら、俺は彼のこの場所での名を確かめた。無言で俺をジッとみてから、ゆっくり頷く。
…そうか。
生まれ育った群れは壊滅した。
家族はバラバラになった。
生死も不明。
女も抱けない。…これは治ったっぽいが。
俺の人生、もうどうでもいいと思っていたけど…
…決めた。
商品の奴隷が集められている檻の中で腕を組んで考え込む。何人か客がきて、俺が呼ばれて立たされたけど、思いっきりガン飛ばしてお帰りいただいた。
「まったく、商品として売れなければ処分対象になるんだぞ?分かっているのか?」
何かの書類をめくりながら、奴隷商のマスターが俺に話しかける。
「なぁ。頼みがある…いや、お願いしたい事があります。マスター」
「…。…何だね?」
意を決して、俺は主に話しかけた。
-Side 29 End-
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