03章 幼少期・かごめかごめ

2/44
478人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
「朝だぞ、クロ」 「…Zz」 「後でぐっすり寝ても良いから、いったん起きろって」 「…んぅ?」 名前を呼ぶ声に意識が呼び戻されて、うっすらと目を開ける。今の私は誰かの膝の上に座っていて、シートベルトのように腹部に膝の持ち主の腕が回されていた。力強くも苦しくない絶妙な力加減で私を抱きしめ、肩に顎を乗せるようにして私の耳元で言葉を囁いている。 「あ…さ?」 いつもなら仕事明けで爆睡中の時間帯に声をかけるのは誰なのか。目をショボショボさせながらゆっくり開き、声のした方を見ると優しく私を見つめる金の瞳があった。 彼は元29番のツンツン狼。 現02番のデレデレわんこ。 そう。デレた。 …じゃなくて。 気が付いたら彼はお客の希望をすべてはねのけ、この店の奴隷として番号を与えられていた。アンビリーバブルである。せっかく男になれたのに。この店に居たら女の子と遊べないぞ? …外に出ても使えるとは限らないけど。 オペを終えて1カ月間くらいは全く彼の姿を見なかった。 あの日。 私は29番の彼の事を思い返しながら温泉に肩まで浸かっていた。 今頃何しているのか。結構いい物件だったから買われてしまったのかも。術後の経過が心配だな、大丈夫かな?と。 すると脱衣所に誰かの気配。 「掃除?ここ?…わーったよ!いや、わかりました、すいません!!…うるせぇな。一度言えばわかるっつーの」 …。 聞き覚えのある声が脱衣所に響いて思わずピシリと身体が固まる。まだ私は嫌われていると思っていたので、出来る限り浴槽の隅に移動して身を丸めて極力小さくなっていた。今度こそこっそり退出するために。なのだが速攻で発見された。 というか、探されていたらしい。 「あ。やっぱ居た。食堂で見かけなかったから、こっちじゃないかと思ったんだよ」 「ふぇ?」 ザバザバとお湯の中に入ってきて、ひょいっと抱き上げられてしまった。あの、服濡れちゃいますよ!?と慌てたのだが、全く気にせず抱きしめられる。 ぎゅーっと。 「????」 何が起きた?びしょ濡れの私を絞りたかったの? クエスチョンマークを飛ばしながらなんと声をかけるべきかと思っていたのだが、ゆらゆら揺れるフサフサの尻尾が突然にクルリと私を包むと、歓喜に声にならない叫び声を上げた。 「!!」 うおぉ! ふっさふさや~!めっちゃ気持ちいいわ~!
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!