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「朝だぞ、クロ」
「…Zz」
「後でぐっすり寝ても良いから、いったん起きろって」
「…んぅ?」
名前を呼ぶ声に意識が呼び戻されて、うっすらと目を開ける。今の私は誰かの膝の上に座っていて、シートベルトのように腹部に膝の持ち主の腕が回されていた。力強くも苦しくない絶妙な力加減で私を抱きしめ、肩に顎を乗せるようにして私の耳元で言葉を囁いている。
「あ…さ?」
いつもなら仕事明けで爆睡中の時間帯に声をかけるのは誰なのか。目をショボショボさせながらゆっくり開き、声のした方を見ると優しく私を見つめる金の瞳があった。
彼は元29番のツンツン狼。
現02番のデレデレわんこ。
そう。デレた。
…じゃなくて。
気が付いたら彼はお客の希望をすべてはねのけ、この店の奴隷として番号を与えられていた。アンビリーバブルである。せっかく男になれたのに。この店に居たら女の子と遊べないぞ?
…外に出ても使えるとは限らないけど。
オペを終えて1カ月間くらいは全く彼の姿を見なかった。
あの日。
私は29番の彼の事を思い返しながら温泉に肩まで浸かっていた。
今頃何しているのか。結構いい物件だったから買われてしまったのかも。術後の経過が心配だな、大丈夫かな?と。
すると脱衣所に誰かの気配。
「掃除?ここ?…わーったよ!いや、わかりました、すいません!!…うるせぇな。一度言えばわかるっつーの」
…。
聞き覚えのある声が脱衣所に響いて思わずピシリと身体が固まる。まだ私は嫌われていると思っていたので、出来る限り浴槽の隅に移動して身を丸めて極力小さくなっていた。今度こそこっそり退出するために。なのだが速攻で発見された。
というか、探されていたらしい。
「あ。やっぱ居た。食堂で見かけなかったから、こっちじゃないかと思ったんだよ」
「ふぇ?」
ザバザバとお湯の中に入ってきて、ひょいっと抱き上げられてしまった。あの、服濡れちゃいますよ!?と慌てたのだが、全く気にせず抱きしめられる。
ぎゅーっと。
「????」
何が起きた?びしょ濡れの私を絞りたかったの?
クエスチョンマークを飛ばしながらなんと声をかけるべきかと思っていたのだが、ゆらゆら揺れるフサフサの尻尾が突然にクルリと私を包むと、歓喜に声にならない叫び声を上げた。
「!!」
うおぉ!
ふっさふさや~!めっちゃ気持ちいいわ~!
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