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もう汚物と称してもいいような悪臭を放つシーツを抱えて、廊下を走る。
ここは首輪をはめたいわゆる奴隷と呼ばれる存在を集めた奴隷商で、その中でも見目麗しいものを囲い男どもの性欲のはけ口にする店、俗にいう娼館という場所でもある。
生まれた時は、こんな人生を歩むなんて思っていなかった。それなりに不幸も幸せも同じくらいあった一般家庭の前世を終えて、今回も同じように生きると思っていたのだけれど、その考えは早々に壊される。
まず、傍に母親しかいなかった。
それは別にいい。片親っていうのも珍しくない。ちゃんと世話もしてくれたし、愛してくれたと理解できる。ただ、父親が問題だった。
まだ言葉もしゃべれない頃に数回あっただけであるが、彼もまた自分を愛してくれているという感じはあった。だが、常に申し訳なさそうに笑う姿が印象的だった。
生まれた時から前世の記憶があったから特別不思議にも思わなかったけれど、今考えればかなり立派な屋敷であったのだろう。広い敷地に大きな屋敷、地位もそれなりに高い人物だったのでは?とも思う。聞いたことないから実際はどうなのか知らないけど。その敷地の片隅でひっそりと暮らす母と自分に向けられるのは、悪意の目ばかりであった。
幼いながらに空気を読み、そして察した。
母は恐らく妾、もしくは愛人だったのだ。
しかも平民、もしくは奴隷に近い身分の女。
だから自分は認知されない。居ない存在、いらない子。
でも別に悲しくはなかった。
助けてほしいときに何もしない父親に愛されたいとは思わなかったし、精神はすでに母親を超える歳でもあった事も救いだった。でも母は違った。
やっぱり普通の女性で、乙女だったのだ。
愛されていない訳では無いはずなのに、周囲の言葉が彼女を傷つけ信じる心が揺らぐ。そして、周囲の悪意に耐えられなかった。
次第に精神を病んでいった彼女は、屋敷の主である父が仕事か遊びか分からないが、屋敷から出かけた隙を狙って本妻によって亡きものとされた。
当時3歳だった自分の目の前での犯行だったが、子供ゆえに何もできない。そしてそのまま気絶させられて、気が付いたら森の中。
捨てられたんだと理解した。
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