変わったことと変わらないもの

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片倉先生は白衣にメガネが似合う若きイケメン教師だ。つまり、恋する男子生徒の敵ってわけ。 「ああ、証明写真のこと?」 職員会議で片倉先生が発言しなかったのは新米教師だからだろう。 きっと何かいいアイデアがあるはず。 「うーん。大丈夫じゃないかな。大学側に聞いてみたら?」 何が大丈夫なんだか全然わからない。 「君が写真に写らないことが君たるゆえんだとわかってもらえればいいんだよ」 ますますわからない。 首を傾げる俺の横で多田が頷いた。 「新田君の場合、非存在が存在の証明になるってことですね」 どういうわけか、多田の言葉はいつも俺の心にするりと入ってくる。 「そうか。透明人間の受験生は俺ぐらいだから、写っていない顔写真が逆に俺である証明になるんだ。」 「そういうこと。一件落着」 片倉先生はこの話にもう興味を失ったようで、また顕微鏡に戻って行った。 「あ、新田君。古文のノート、貸そうか?」 珍しく多田が俺に話しかけて来た。しかも、ノートを貸すって⁉ 「今日、古文の授業中、居眠りしてたでしょ?」 その言葉にまじまじと多田の顔を見てしまった。 透明になって良かったことの数少ない一つだ。 人のことをじっと見ても気づかれない。 「なんでわかった? 俺が居眠りしてるって」 そんなに揺れていたつもりはない。 目を閉じているか見えないから、居眠りしても誰にも気づかれないと思っていたのに。 「え? えーと、なんとなく?」 焦ったように目を泳がせる多田はかなりわかりやすいやつだ。 それだけ俺のことを見つめているってことだろ? 透明になる前から多田が俺を見ていることには気づいていた。 毎日、ふと見上げれば2階の生物室からグラウンドを見ている多田がいた。 誰を見ているのか気になって仕方なくなって、胸がモヤモヤして。 サッカー部の柏か、陸上部の佐藤か、テニス部の越智か。 カッコいいと人気の男子たちを睨んでいたが、ある日気づいた。 多田が見ているのはラグビー部だと。 土砂降りの雨でもグラウンドで練習するのはうちの部だけだから。 そうなると、もう仲間が敵に見えて来てタックルしまくり。 泥だらけで誰が誰だかわからなくなった俺たちが部室に向かって歩いていたら、昇降口から出て来た多田が言ったんだ。
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