第1章

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ガチャリ。 「・・・ただいま。」 返事は返ってこない。 分かっている。 誰もいないことは。 ランドセルを自分の部屋に置いてリビングへと向かう。 テーブルには冷たい食事と置手紙。 『温めて食べてね』 お母さんとの唯一のコミュニケーションだ。 こんな僕のことを皆可哀そうだと言う。 でもこんなことは慣れたものだ。 父親のいない家庭を支えるためには仕方のないこと。 寝るまでにお母さんは帰ってこなかった。 次の朝も僕が目覚める頃にはもうお母さんは出掛けていた。 小学校に行っても話す友達はいない。 窓側隅の席に着くと必要がなければ動かない。 午後の授業、後ろからぞろぞろと児童たちの親が入ってきた。 そういえば今日は参観日なんだ。 当然僕のお母さんはいない。 クラスメイトたちは自分の親に振り向き手を振ったり、頬を赤くして一切後ろを向かなかったり様々な反応を見せている。 授業は国語。 選ばれた児童が『お母さん』というテーマで作文を読んでいく。 緊張して声が震えたり自信満々に読んだり。
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