第1章

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お母さんの記憶にはまだ僕が残っていたの? もうどこにも存在しないと思っていた。 だってもう薄れていたんだ。 自分の存在が、自分自身の記憶からも。 気づいた時には自分の名前を忘れていた。 僕は、誰なの? ねえお母さん教えてよ。 僕の名前を。 胸を締め付けられる感覚と共に頬を一滴の涙が流れ床へと落ちた。 ーーピチャッ。 「何の音かしら。」 お母さんは音に気付いた。 涙の落ちた場所にしゃがみ込む。 「・・・濡れてる。」 お母さん、気付いて。 僕はここにいる。 しゃがみ込んだ母親に思わず抱き付いた。 「っ!・・・。」 最初は驚いた様子だったが、すぐにお母さんは受け入れた。 「お母さん、僕はここにいるよ。ねえ教えてよ。僕の名前を・・・。」 届くかわからない声を出した。 「誰か、いるのね。私を抱き締めてる。貴方は・・・。」 急にお母さんは僕を抱き締め返した。 「何故かしら・・・。今まで忘れていてごめんなさい!貴方はマコト、私の息子よ・・・!」 マコト。それが僕の名前。 消えていなかった。 僕は透明なんかじゃない、ここにいる!
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