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ここは?
いったい何処?
色がない?
いや、そうではない?
あまりにすべてが透き通り、光が反射し、重なりあい、かえって白が溢れただけか?
本当に?
あの反射の角にあるのは、陰! 黒よりも黒い、黒!
あの窓ガラスの外にあるのは、闇! 黒体より真っ暗な、闇!
けれどもこの世では、それはまだ小さい。
エントランスを抜けたその先の広場には人型の像が立つ。
そのまわりに纏わりつくのは、色。たゆとう色。
ジワジワと像の台座を昇っていくのは、色。ぴちゃぴちゃと音を鳴らし……。短く緩い悲鳴が聞こえ……。
それは男の声ではなく、動物の声ではなく、また決して成人女性の声ではない。
それが背後から聞こえる。背中を圧する存在。ずっしりと、またヌメヌメと、ぴちゃぴちゃと、エントランスのガラス壁に、この世のものとは思えぬ眩煌を反射する。
光の乱舞。光彩陸離! 交じりあい、熔けあい、闇の圧力を増加させ……。
悲鳴が聞こえている。細く、長く、痛々しく、けれども何処かに嬌声を交え、悲鳴が耳を引き裂いていく。
液体のようにドロドロと粘つきながら外耳を辿り、ぷるんと身体を震わせ、その内側で振動を増し、やがて衝撃が鼓膜に達して爆発する。
畏れているのは悲鳴なのか? 得体の知れないナニモノなのか?
でも、これは夢だよ。こんなことは夢に決まっている。心の中で誰かが断定。
たとえ夢だとしても、目が醒めなければそれは現実と同じこと。別の誰かがそいつに答える。
欲するから夢に見るんだ。欲するから脳が情報を整理するんだ。さらに誰かが投げやりに告げる。
ふん、そんなこと、振りかえればわかるじゃないか!
そう呟いたのは誰だったのだろう?
空気の振動を感じる。脈動だ。一様ではない。ある一定の不連続な規則性を持っている。
想像とは違い、それは獣の臭いを放っていない。
無臭の香水って意味があるのだろうか? そんなことを考えている。恐怖が脳を冒したから?
ついで力づくで何モノかに振り向かされる。いきなり肩を捕まれ、背骨がひしゃげるくらい強引に……。
何がいる? 何を見た? ガラス質の? 透明なのか?
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