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とにかくそうして父親は祖母の元から旅立つ。母親は父親が勤めた農業高校の教え子。どうして母親が通っていたのが農業高校だったのかというと母親の実家の近くに普通高校や商業高校が存在しなかったからだ。溺愛ではなかったようだが、それなりに二親からは愛されている。母方の祖父と祖母には生前数回会ったことがある。典型的な田舎の昔風の夫婦の感じ。祖父はいわゆる頑固親父として家族の中で君臨する。出遭った両親二人の間にどんなロマンスがあったか、はなかったか、詳細を知らない。ただそのロマンスがなければ、ぼくは生まれてこなかったはずで、それを思うと狂おしい気持ちに駆られることがある。もちろんそれは、少なくともぼくが父親の子供であるという前提に立った場合の話ではあるが……。
両親が父方の郷里に戻ってきた理由もよくわからない。少なくとも数回聞かされた説明によると祖母の病気が原因らしい。だがぼくが憶えている限り、祖母は確かに膵臓の持病は持っていたものの、何かに付けて忙しく動きまわったり、気に入った催し物を見つけては頻繁に外出するような人だ。とても病弱だったとは思えない。これもまた息子を我が手に取り返すための祖母の策略だったのだろうか?
そうして生後二年目にして、ぼくがこの町に越して来る。そのままこの地が出身地となる。
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