生い立ち

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 最初の記憶は微妙なところ。ぼくにはどうも厭な記憶をなかったことにしてしまおうという傾向が物心付いたときからあるからだ。記憶の抜けが多い。その中でどうにか最初に近いと考えられる記憶はお風呂。……というか、水浴び。三歳か四歳のことだろう。そのとき一緒に遊んでいたのは現在でも近所の実家に暮らしている藤原早紀。今ではすっかり綺麗になり、声を掛けるどころか近づくことさえ憚られる。そんな気持ちにさせられてしまう。早紀は当事も綺麗な子供だ。現在との違いといえば身体全体のバランスが単に幼児体形だったというくらいか? 詳しい事情は忘れている。おそらく暑い夏の日だったと思う。ぼくがぐずってプールで水浴びをしたいと喚いたのが、そもそもの始まりだった記憶がある。けれども生憎そのとき簡易プールのビニールが破れており、ガムテープを貼っても空気漏れすることが確認されたので、仕方なく水浴びには低く水を貼ったお風呂が使われる。早紀や他の近所の子供たちと一緒に、ぼくはときどきその(破れていない)簡易型のビニールプールで楽しんでいる。ビニールプールの場合、玄関先が設置場所になるので使用者はみな水着を纏う。だが、その日は場所がお風呂だったことと普通に幼い子供だからという判断で、ぼくと早紀の二人は水着を身に付けずにお風呂に向かう。ただし風呂場の戸は開け放してあり、ときどきぼくの母親――ということはその日が休みだったというわけか――あるいは早紀の母親が代わる代わる様子を覗きに来ていたはず。だが、それは記憶再構築に基づく再生記憶かもしれない。早紀は自分が綺麗であるということに気づいていない。そういった人によくあるように、まったく裸を恥ずかしがることがない。ぼくの方は女の子の丸裸をこんなに近くで見るのが始めてだ。また着替えの最中に自分にはない早紀の部分を見てしまったことで少しばかりドギマギする。当時は完全な子供だから、そのときどんな会話がなされたのか記憶がない。だが、そこで行われたいくつかの行為は憶えている。早紀が自分の父親にあるものがぼくにもあることに興味を示し、やたらとそれを触ってこようとしたのだ。何度も「だめぇ!」と叫びながらそれを避けていたぼくだが、それでも攻撃の手を逃れることはできない。数回触られ、少し引っ張られた辺りで、ぼくが自分の身体に特別な感覚を覚える。
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