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今にして思えば、赤ん坊でも勃起することがあるのだから、ぼくのそれも勃っていたに違いない。直後、起こるべきして事故が起きる。風呂の底部にペタンと尻をつけて坐っていたぼくの上に早紀が足を滑らせ、バランスを崩した状態でゆっくりと落ちて来たのだ。ついで偶然の作用に助けられ、ぼくのそれが早紀のそれの中にプルンと入る。ぼくの記憶ではそうなっている。とても痛かった覚えがある。ほんの一瞬のことだ、また本当に先っぽが入っただけだから瞬く間にぼくのそれは早紀のそれから抜け、早紀が風呂の底部にドシンと尻餅をつく。とたんにぼくはおしっこがしたくなり、金切り声で母親を呼ぶ。その場で漏らしてしまうことや早紀の目にそれを見せることが、どうしても自分で赦せなかったのだろう。母親に抱きかかえられてトイレに向かうぼくを早紀は無邪気な目で一瞥する。ついで、まるで何事も起こらなかったかのように相手のいないひとり遊びを始める。そのとき振り返って見つめた一瞬の早紀の顔が美しかったことを、ぼくは今でも鮮明に憶えている。長じてからそれなりの勇気を振り絞り、早紀にそのときのことを確認したが、当然のように――といって良いものか――早紀にはその記憶がない。
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