透明人間になった人

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あるところに、人様に迷惑ばかりかける、困った若者がおったそうな。 迷惑ばかりをかけるから、町の誰からも嫌われておった。 若者は、その事を知ってはいたが、だからと言って、迷惑なことを止めようとは思わなかった。 そしてある日、若者は、透明になれる薬を手に入れた。 「ハハハ、これで何でもやれるぞ!」 若者は、思い付く限りの悪いことをした。 女風呂は覗く、店で万引きはする、終いには、気に入らない人を傷つけたりもした。 それでも、若者が捕まることはなかった。 どんなに怪しくても、若者がやったという証拠が一つも見つからなかったからだ。 ある日、若者は銀行を襲った。 と、いっても、誰にも姿が見られないので、銀行の人の後をついていって、金庫に忍び込んだ。 「おぉ、すごいお金だ。 一生遊んで暮らせるぞ!」 若者は、お金を持ってきた袋に、ひたすらに詰め込んだ。 たくさん持ってきた袋は、全部、お金で一杯になった。 「よーし、じゃあ帰ろう」 満足した若者は、金庫から外に出ようとした。 しかし、その時に気が付いた。 出る方法が分からないのだ。 金庫に入るときは、銀行の人に付いてきたから問題なかった。 だが、今、銀行の人はいない。 とうの昔に、金庫の外に出てしまっていたのだ。 若者は困った。 嫌われていた自分を捜す者などいない。 助けを呼ぼうにも、自分の姿は誰にも見られない。 そもそも、人がやってこないのだ。 人がいなくては、たくさんのお金も意味をなさない。 若者は、誰の目にも止まることなく、死んでしまった。 たった一人。 暗い金庫の中で。 それはそれは、哀れなものだった。
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