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ところで、この透明になれる薬を手に入れた者がもう一人いた。
同じ町に住む者ながら、この者は、誰に対しても親切で、町の者にも好かれておった。
この者は、薬を手にいれても、使うことはしなかった。
なぜなら、人は、人の理でしか生きられぬ存在なのを知っていたからだ。
人の理とは、人の営みのこと。
その営みは、人と人とのふれあいのこと。
それには、相手に自分の姿が見えていた方が良いことを、知っていたからだ。
だが、この薬が悪いことに使われることを憂いたこの者は、薬を庭に埋めてしまった。
すると、どうしたことだろう。
町は誰の目にも見えなくなってしまった。
そう、町が透明になってしまったのだ。
その町は、今でも、その薬の効力で見ることが出来ない。
しかし、時折、薬の効力が弱まって、見ることが出来る。
富山の港から、"蜃気楼"というものが見えることがあるだろう。
あれがそうなのだ。
そして、聞こえる海風は、自分の行為を嘆き続けている、かの者の泣き声とも言われておる。
※物語は全てフィクションであり、そのような伝説はないものと思われます。
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