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「お兄ちゃん、何してるの?」
「い、いやぁ、その手に持ってるものをもらえないかと思ってだなぁ」
背後から忍び寄っていた俺は、ふいに振り返った妹を前に不自然な姿で硬直する。
「ふーん」
「代わりに、お兄ちゃんが何でも買ってあげるからっ!(この瞬間のために、俺は千通りの交渉手段を持ち合わせて…)」
「いいよ、はい」
「……へ?」
「じゃあ、約束、忘れないでね?」
そう言われ、俺は手渡されたハート型の箱を眺める。
「(もしかして、俺の分、だったのか?)」
初めての妹からのバレンタインチョコ。
俺は、感動しながら、ゆっくりと箱を開けた……が。
『ちゃんとゴミ箱に捨てといてね』
中には、妹からのそのメッセージのみ。
チョコは、なかった。
夜景が美しいその場所で、俺は絶望にうちひしがれるのだった。
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