第2章 失われたサルン

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さてそんなミラルくんを尻目に見たレツタは、車を停めた。 「とりあえずここに隠れるぞ。ここはソラブチ州レジスタンスの本拠地だ、安心しろ。」 巨大な温泉旅館だった。 「鶴正」 世間知らずの私でも名を聞くほどのところだった。 レジスタンスと関わりがあるらしいというのはよく聞くが、なぜか政府は官憲を仕向けない。 有名な話である。 ずらりと女衆が並んで出迎えてくる。丁重すぎると言ってもいい出迎えだ。 少し尻込みする私とミラルだが、湯桶に足を入れたときの湯の丁度のよい温かさ、この時点で格別だと思った。 レツタのようなエロ親父ならばすぐさま足の甲にキスをするだろう。 そのレツタの前に現れたのは、60を越そうかという老人だった。 キスするかと思ったがもちろんそんなわけはなく、むしろ少し後ろに逃げようとまでしていた。 「いよーレツタぁ!おおぎくなったでねえかこのクソ小僧!」 満面の笑みで肩を叩いてきた。 並ぶと、明らかに今の私たち逃亡犯の中で一番上背のあるレツタよりでかい。体や顔は老人らしいやつれ方をしているものの、この真冬の中単の着物と襦袢一枚ずつで来ているあたり風格の違いを感じる。 応対するレツタの首には、漫画的な汗が流れている。 「そのチビどもは誰だい、隠し子か。」 「あんたじゃないんですから。大学の後輩です、これからこいつらをカムイコタンまで連れて行くんです。」 「はー大学!どう見たって高校坊主じゃねえかおめえ。」 「頭のいいやつらでさ、大方なんぞ野望あって手早く抜け出したに違いなくてな。」 「ほう...」 好々爺の笑みをたたえた目が鋭い眼光を帯び、私たちを射抜いた。 ミラルも言った。老人の目じゃない。その通り。 白髪頭をかくと 「まぁいい、もうお部屋にお連れいたせい!!」 「ハイ!!」 やっと休めるのかと思い安堵した。休めるわけなかったけど。
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