第2章 失われたサルン

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「國村のジジイ?一言で言うとヤクザだよ。ここの宿場町では有名、というかここらへん牛耳ってた2代目だ。」 昼食の席でレツタに聞いてみると、思った通りの答えが返ってきた。 「やっぱり。裾から胸の彫り物が見えたからそうだと思ったけど。」 「実際胴体一面刺青だぜ。」 「お仲間ね、ミラル。」 「極道と一緒にしないでくれ。」 日本人たちにとって刺青はヤクザの象徴だったようだが、アイヌ部族にとっては逆に欠かせないものだった。 そもそも刺青とは世界のあらゆる部族の元服のしるしであり、また部族を表す記号でもあった。 ヤクザにしたってファッションではなく、忠誠や信条を表すのが本当のところである。 「日帝時代に初代國村リョウは小樽に入り舟仕事をやった。生計を立てるとイワミザワに移り宿場と浴場を経営した、って話だ。そういうヤクザ者はいっぱいいたのさ。」 「レツタ、この旅館は國村とどういう関係があるの。まさか違法なとこじゃないでしょうね。」 「ムッツリのお前が思ってるようなもんじゃないさ。一言で言うと、旅館のもん全員...」 「エトカ、車が停まったわ。きっと警察でしょうね。」 「案外早くたどり着いたのね。」 「他の宿場からもタレコミがさっき来た。ここらへん全部探し当たってるらしい。」 「さて、どうやって追い返そうかしら。」 ポキリポキリという指の鳴る音とと、首の鳴る音。 「...武装集団だよ。」 襖の向こうから聞こえた女将たちの話し声は、私を一瞬で納得させるに足った。
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