4人が本棚に入れています
本棚に追加
「返事、しないね」
「眠っているのかな?」
ありえないが、部屋の外で誰かが話している。
「返事がないと入れないよ」
「そうだね。入れないね」
問うものと相槌を打つもの。
小さな声が語り合う。
「起きてもらわなきゃ」
「起きて。起きて」
またノックの音が響き出す。
コンコンコン。
コンコンコン。
コンコンコンコン、コンコンコン。
「起きないね」
「これじゃ連れて行けないよ」
連れて行く?
…俺を? どこに?
「早くしないと船が出ちゃうよ」
「起きてよ、起きて」
コンコンコン。
「返事がないと連れてけないよ」
「起きて。聞いて。返事して」
コンコンコン。
コンコンコン。
「もう、時間がないよ」
「船が出ちゃう」
コンコンコン。
コンコンコン。
コンコンコンコン。
コンコンコンコン。
コンコンコン。 コンコンコン。
コンコンコンコン。 コンコンコンコンコン。
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン…
コンコンコンコンコンコンゴンゴンゴンゴンゴゴンゴゴン!
「ちっ! 起きやがらねぇ!」
「くそっ! 魂一つ取り損ねた!」
それきり音と会話は消えた。
* * *
数日で俺のインフルエンザは治ったが、熱に浮かされた幻覚だと思うには、この体験は妙に生々しくて、いまだに俺は誰にもこの時の話をしていない。
ドアの向こうで俺に呼びかけながら、必死にノックを繰り返していた、あの声の主達が何者なのか…判らないし、一生判らなくていいと思っている。
風邪の日のできごと…完
最初のコメントを投稿しよう!