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しとしと、と雨の降る繁華街から一本奥まった路地に入り、雨宿りになんとなく入った画廊で、 おれは自分に馴染みのない作風の絵を見ていた。 それは、日本画ーーというのだろうか、細く甘やかな描線と淡い色彩を使って描かれている。 女性が赤い縄で縛られている。力なく投げ出された手、縄の食い込むやわらかな肌。おれなどは目のやり場に困ってしまうような、エロティックな絵だった。 偏執的なまでに丁寧に、虐げられる女性がそこに描かれていた。 この絵を見ていることについてどこか恥ずかしさすら感じてしまっていたが、 彼女の目を見ていると、なぜだかそこから視線を外せなくなってしまった。 情欲の高まりからか、彼女のまなじりは赤く染まり、すこしだけ目を伏せながら、涙に潤んだまなざしを僕に投げかけてくるーーー。 その絵は確かに、鑑賞者と作品の間に独特の空間を作り上げてしまうような、力を持ったものだった。 おれはじっとそれを見ている。魅せられていた、と言ってもいい。
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