君を想うとき、この空の広さが沁みる

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移動時間の合間に暗記してしまった住所はこの辺り。だけどさっきから同じ場所をグルグルしている気がする。 右折するのを止めて直進してみると、遠くの外灯が照らすのはさっきの商店街。 このままでは寂れた街で路頭に迷ってしまう。店じまいをしている背中を見つけて急いで声を掛けた。 「か、鴨芽3丁目はこの辺りですか?」 「3丁目はもっと戻らなきゃ。魚屋を過ぎた角から左折したら3丁目だよ」 振り向きながら屈めた背を伸ばしたその人は予想外に背が高く、開け放つ店の明かりが照らした顔に日本語が通じたことが信じられなかった。 「道がわからないんなら相手に電話してみたら?ウチを待ち合わせにすればいいよ」 「それが、住所しかわからなくて……」 その流暢な日本語とアラブ系にも見える彫り深い顔形に違和感を覚えながら、俯き気味にズズッと鼻をすする。 「大翔さん、明日の食パンの追加しておきました」 「お、サンキュー」 中から出てきた女の子と店前に並べたプランターやメニューを書いた黒板やイーゼルを片付けていく。
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