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明日花はバックヤードへと入ると、普段バイトでも立ち入り禁止と言われている扉を開きました。
中へ入ると、そこには様々な魚の水槽があって中には見たことのない気味の悪い形をした魚もいて、明日花は不気味に思いつつもなるべく足音を立てずに部屋の中を進みました。
しばらく歩くと、少し離れた場所でスタッフの人たちが数人集まって何かを話していました。
何を話しているのだろうと近づくと、だんだんと話し声がハッキリと聞こえてきました。
「ほう、今度の子はとても美人だな」
「えぇ、血液も適合した上に余った肉が人魚達にとても好評で………」
「前々から目をつけてはいたが、これでまた目玉が増えたな」
目玉?
明日花が疑問に思った瞬間、スタッフの人がずれて話題に上がっていた目玉が見えました。
明日花は、その姿を見た瞬間頭が真っ白になってしまいました。
緩やかなウェーブを描いた髪に美しい貝殻の飾りに、プロポーション抜群の身体、しかしその下半身は魚の姿をしていてその姿はまさに人魚でした。
美しい人魚、しかし明日花はその人魚の顔に見覚えがあったのです。
だって、その人魚の正体は………。
「郁実さん………!?」
明日花が慕っていたバイト仲間、立花郁実だったのですから。
虚ろな目の郁実、その目は明日花の姿を捉えていて、郁実はジッと明日花を見つめるとゆっくりと口を開きました。
『………』
「え?」
全く出ていない声………。
最初、明日花は郁実が何を言っているか分かりませんでしたが、何回もゆっくりと動く郁実の口の動きをしっかり見て、明日花は自分でも口を動かすうちにだんだんと郁実が何を言っているのか分かり始めてきました。
郁実の口はある三文字の言葉を表していました。
最後の部分は分かりづらかったですが、その意味を理解した瞬間明日花は慌ててその場から逃げ出しました。
郁実が声なき声で明日花に訴えていたこと、それは………。
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