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『ニ、ゲ、テ』
郁実は明日花に逃げろと言っていたのです。
明日花は先ほどの郁実の姿を思い出して、視界が涙でぼやけて見づらかったですが、必死に足を動かしました。
あの話は本当だったんだ!
血液で人魚に出来る人を調べているって………。
だから採血されていたうえに、給料も高かったんだ………!
誰かにこのことを知らせないとと、必死に走る明日花。
あともう少しで出口にたどり着くという時でした。
「あ!?」
頭部に強い衝撃を受けて、明日花はそのまま地面に倒れて気を失ってしまったのでした………。
誰かの話し声が聞こえる………。
それに、何だか身体に違和感を感じる………。
何だろう、この匂いは………消毒液に魚の匂い?
ゆっくりと目を開く明日花。
周りには先ほど郁実を取り囲んでいたスタッフが明日花の姿を見てニヤニヤと笑みを浮かべています。
(逃げなくちゃ!)
そう判断して足に力を込めようとしますが、うまく足が動きません。
それどころか妙な違和感を感じて恐る恐る自分の足を見た瞬間………明日花は声なき声で悲鳴をあげました。
何と明日花の下半身は、人間の足ではなく魚の姿へ変わっていたのです。
胸には貝殻のブラジャーが着けられていて、髪に触れると貝殻の髪飾りがついていました。
明日花は必死にスタッフに何かを言おうとしますが、何度叫ぼうとしても空気の音が出るだけで声が全く出ないのです。
「いやー、まさか誰かに見られるとはね」
「まったく鍵の管理はしっかりしたまえよ」
「すいません」
「まあ、でも人魚が二体増えたから良しとしよう」
「そうだな、人魚も新しい餌がもらえて喜んでいたしな」
そう言ってスタッフは明日花を見つめると、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべました。
その後ろでは、おそらく明日花の足の肉だったであろう肉を恐ろしい形相で貪る人魚達がいて、その中にはあの郁実の姿もありました。
「よかったね明日花ちゃん、これで沢山給料が貰えるよ」
そう言って笑うスタッフに、明日花はただただ涙を流したのでした………。
貴方はバイトをしていますか?
飲食?それとも配達?
けれどもし、給料があまりにも良すぎたら気をつけたほうがいいですよ。
もしかしたらとんでもない秘密が隠されているかもしれませんからね………。
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