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「まあまあ……そうなのね。晶也さん、響のこと、よろしくお願いしますね」
「はい、もちろんです」
「響はね、こんな怖い顔してますけど、優しくていい子ですからね」
「そうですよね。本当にいい子です」
晶也に孫を褒められた祖母は、とてもうれしそうだった。さすがに響との関係を説明することはなかったが、それでも仲の良いふたりの様子は伝わったみたいだ。その後も響をお願いします、と何度も晶也に繰り返す祖母を見て、響は胸が熱くなった。
「じゃあ、またね。これからはもっとマメに顔出しなさいよ。心配になっちゃうから」
「……はい」
五年間もほぼ音信不通にしていた不義理な息子を以前と変わらず接してくれる両親には頭が上がらない。帰るときも、姿が見えなくなるまでずっと見送ってくれる母を、何度も振り返ってしまった。
「先輩、今日はありがとうございました」
「俺のほうこそ、お前の家族に会わせてくれてありがとう。俺はとても幸せ者だよ」
「…………して、ますよ」
「ん?」
小さな声は、やはり晶也には届かず聞き返される。大事なことは、ぼそぼそと伝えてもだめなんだと覚悟を決めた。
「愛してますよ、晶也さん」
晶也の瞳が見開かれ、パチパチと瞬いた。静かな住宅街は、周りに誰もいないので、響は晶也の大きな手を握った。
「俺と先輩も、家族ですよね」
緊張しながら発した言葉には反応がない。うつむく晶也は少し震えているようだ。
「先輩……泣いてる?」
「バカ響」
だが言葉とは裏腹に、握った手をぎゅっと強く握り返され、小さな声でありがとうと聞こえた。ありがとうなんて、こちらこそだ。晶也が響を好きになってくれて、ずっと好きでいてくれることがとても幸せだ。
「また来年も、お年始つきあって下さいね」
「おう……」
いつまでもいつまでも――手をつないでふたり一緒に。
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