死骸と猫とレゾンデートル

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 ミナちゃんは先天性代謝異常による神経変性疾患を患っているために、5歳にして余命幾ばくも無い子供でした。 「ミナはもう病院で治療をしたくないと泣いて、この家で安らかに死を迎えることを望んでいます。 でも、幼いミナが死という概念を理解しているのかと周りの人が疑問視します。 ですから、どうかナギサさんの言葉で、あの娘に安らかな……死を……」  母親が涙ながらに紡いだ言葉を、私は胸に刻んで患者と会う覚悟を決めました。  奥の部屋に通されると、そこに呼吸器をつけたミナちゃんがいました。  私は防腐消臭剤を吹きかけながら、ベッドに横たわるミナちゃんに挨拶をしました。 「ミナちゃん、こんにちは──私の名前はナギサと言います」 「──……こんにちは……」  少し怯えた表情で、でも澄んだ瞳のミナちゃんが挨拶しました。 「お姉さんね、ミナちゃんとお話をしに来たんだよ」 「ナギサお姉ちゃんは、どうして透明に見えるの?」 「それはね、ミナちゃんが行く世界とイッタリキタリしているからだよ」 「……その黒猫はお姉ちゃんが連れて来たの?」  眼をパチクリさせて、ミナちゃんが訊きました。  いつの間にかミナちゃんの足元に、毛艶の良い黒猫が佇んでいたのです。 「この黒猫の名前は、ワルキューレと言うのよ」 「ワルキューレ? どこから来たの?」  私はミナちゃんの細い手を握りながら、ゆっくりと諭すように話しました。 「それはね、これからミナちゃんが行く世界から迎えに来たんだよ」
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