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「あたしが行く世界……?」
「そう。そこはね、美味しい物が食べられる、そんな楽しい世界なんだよ」
「美味しい物? ハンバーグとか?」
「うん。ミナちゃんが好きなハンバーグも、お腹いっぱい食べられるよ」
するとミナちゃんが、私の手を鼻に寄せて匂いを嗅いだのです。
「ミナの好きなハンバーグを作るとね、お母さんの手が匂うんだよ。でもね、ミナはその匂いが好きなの」
「ごめんね、私の手にはハンバーグの匂いがしなくて」
「でも、ミナの手より温かいよ」
私の手に頬を寄せて、ミナちゃんが涙を流しました。
「ミナちゃんが行く世界、天国はもっと温かいよ。そこは痛みや病気の無い世界だよ」
「もう痛いの嫌ぁ。病気も怖いのぉ。ミナはお家にいるのが好きなの」
ちりぃぃん──
首輪の鈴の音を鳴らして、ワルキューレが私を見て言いました。
『ナギサよ。余が病人の枕元に立っていたら、その人間の命は救かるだろう。
逆に足下に立ったならば、その人間の命は尽きてしまう。この娘はもう──』
(わかっているわ……でも、もうちょっと待って欲しい)
黒猫の姿をした死神に、しばしの猶予を請いました。
「でもね、ミナちゃんは天国に行かないといけないんだよ。そうしないと、お母さんが心配するのよ」
「お母さんも来るかなぁ? ミナ、独りは嫌だなぁ」
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