死骸と猫とレゾンデートル

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 ミナちゃんの母親は、死体遺棄容疑で緊急逮捕されました。  遺体は死後一ヶ月を経過していましたが、死因が病死だと聞いてわずかに安堵しました。  母親の愛人が暴力を振るうので、不治の病に冒された娘を病院に連れて行けず自宅に閉じ込めていたのです。  私が訪問したときには、腐乱した娘の遺体を生きていると思い込んで匿っていたのでした。 『救われない世界だな。この世界に降りる度に思うぞ、ここは生きるには辛すぎる世界だと。 そこに留まる死番師には、生き地獄のような世界だろうて』  黒猫の死神ワルキューレが、私を見上げてつぶやきました。  私は死番師──死番とは、死者が次々と逝くのを見送る、いくら供養されても浮かばれない死者のことです。  私はミナちゃんの匂いが残る手をかざしながら、この美しくも醜悪な世界の、灼けるように耀く黄昏時の落陽を眺めました。 「それでも救いを求める子供がいる限り、私はこの世界に留まるしかないのよ。 それが私の存在理由──レゾンデートルなのだから」 ──死骸と猫とレゾンデートル 完
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