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「あら、そんなことが」
帰宅した先崎は妻の紀恵に幸運弁当の話をしてみた。妻はくすくすと笑いながら空の弁当箱を洗っている。
「じゃあ、明日から毎日焼肉弁当にしましょうか?」
「毎日は勘弁してくれよ……」
「うふふ、冗談ですよ」
「俺のところにも他の奴らみたいな幸運が来ないものかね」
お茶をすすりながら先崎は言った。
「いいじゃないですか、あなたは毎回みなさんの笑顔が見られるのでしょう?」
蛇口を捻り紀恵は先崎の前の椅子に座る。先崎はテーブルのポットから急須に湯を入れ紀恵の分の茶を淹れた。ありがとうと受け取ると水で冷たくなった手を自分に入れた茶の湯呑みを両手で包んで温める。
「その笑顔を見れば、貴方も笑顔になれる。それだけでも幸運だと思いますよ」
ひとつ文句を言うならばね、と紀恵は首を少し傾け口を尖らせる。
「せめて、気合の入ったお弁当の時だったなら私ももっと喜べましたけどね?」
「ははは……縁起物とはそういうものさ」
「そうですね」
先崎の言葉に紀恵は微笑む。湯呑みを包む手に片手を重ねた。
「いつも、ありがとう」
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