焼肉弁当

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昼休み。12時を告げるチャイム音とともに社員たちはガタガタと席を立ち上がっていく。さっさと1人で外へ出るもの、社内自販機の即席ものを買いに行くもの、仲間たちと集まり始めるもの各々の日常通りに時が流れる。先崎は人々が外へ流れてゆくのを少し待ってからカバンから弁当と水筒を取り出した。 「あ、先崎さん!もしかして今日の弁当は……?」  先崎の後ろからまだ残っていた伊東が中身をのぞき込んでいる。 「やっぱり…焼肉弁当じゃないですかっ!」  うっしゃぁ、伊東はガッツポーズをして声を上げた。 「なんなんだお前は…やらないぞ」 「いえいえいえ、そんなことしませんよ。とにかくありがとうございます!」  満面の笑みを浮かべた伊東は鼻歌交じりに昼食へと出かけて行った。変な奴だ、先崎は首をかしげながらため息をつくと箸を持ち昼食をとりはじめる。   先崎の焼肉弁当は弁当箱いっぱいに肉が広がっているものだ。肉は豚のこま切れ肉、野菜は肉と同じくらいに炒めた玉ねぎ。その上に白ごまが少々。明けた瞬間に届くニンニクの香りで食欲がぐんと増すのだ。甘辛いたれに丁度よくご飯の量は調整されている。 先崎の妻いわく「手抜き弁当」だった。冷蔵庫が寂しいときや寝坊した時はだいたいこれが出る。玉ねぎは常備菜としてない時はないし、豚肉も安売りの時に冷凍したものだ。ただ、焼肉のたれの部分は市販の完成したものではなくて自分でつけている。そこはだけは拘りなのだと熱く語る妻を思い出して先崎は微笑を浮かべた。
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