第1章

2/3
前へ
/3ページ
次へ
「最悪だ……この世の終わりだ…」 呟いて、わたしはドレスが汚れるのもかまわず、床にしゃがみ込んだ。 「最悪だ…この世の終わり……してたまるか!」 周りにいた人々がぎょっとするほど叫んで、キッとまなじりもキツく花婿と瓜ふたつの双子の弟の顔を掴んだ。 「きょうか、さん?」 「誠治くん、今日、わたしは貴方と結婚します」 「その手があったか!」 周りにいた親族からは拍手まで聞こえる。 「ち、ちょっと待った! 俺の意思は?」 「今はない! 誠人が女と逃げた今は、誠治くんに選択肢はない。わたしと形だけ結婚式して」 なんとしても、結婚式のドタキャンだけは避けたい。 「誠治くん、お願い。なんでもお願い聞いてあげるから」 「……なんでも?」 「うん。式が終わったらね」 「わかった……」 周囲から歓声が聞こえるのは嘘じゃない。 こうして、わたしは兄ではなく弟の方と結婚式を挙げて、無事に式を済ませた。 「京香さん」 「な~に~」 ハネムーン先で(お金がもったいない理由)誠治くんとふたりになり、わたしは脱力していた。 数時間前までは、最悪だ…この世の終わりだと思っていたのに、今は天国にいる。 「結婚式前に言っていたこと」 「あぁ、なんでも言うこと聞くだっけ? なに?」 ベッドでくつろぐわたしに誠治くんが、ベッドの端に座って、ジャケットの懐から一枚の紙を出した。 「これにサインして」 「はいはい」 呑気に言って拾い上げた紙を見やって、わたしは叫んだ。 「婚姻届!」 「サイン」 「せ、せいじくん落ち着こう」 「落ち着くのは京香さんの方」 躙り寄る誠治くんから逃がれるために、ベッドから降りようとした時、 ドン。 誠治くんの両腕で囲まれました。 「俺の理性が動いてる、今、サインして」 「り、理性って」 「好きでもない奴と結婚式挙げるほど、俺は馬鹿じゃない」 どんどん誠治くんが近づいてきて、唇と唇が触れる寸前のところで言われた。 「サインは?」 貞操の危機と「する!する!サインする!」と、腕をどけてくれた誠治くんからスルリと逃げ出して、誠治くんが渡してくれたペンを持って超スピードで必要事項を書いた。 他の必要事項は既に埋められている。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加