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「最悪だ……この世の終わりだ…」
呟いて、わたしはドレスが汚れるのもかまわず、床にしゃがみ込んだ。
「最悪だ…この世の終わり……してたまるか!」
周りにいた人々がぎょっとするほど叫んで、キッとまなじりもキツく花婿と瓜ふたつの双子の弟の顔を掴んだ。
「きょうか、さん?」
「誠治くん、今日、わたしは貴方と結婚します」
「その手があったか!」
周りにいた親族からは拍手まで聞こえる。
「ち、ちょっと待った! 俺の意思は?」
「今はない! 誠人が女と逃げた今は、誠治くんに選択肢はない。わたしと形だけ結婚式して」
なんとしても、結婚式のドタキャンだけは避けたい。
「誠治くん、お願い。なんでもお願い聞いてあげるから」
「……なんでも?」
「うん。式が終わったらね」
「わかった……」
周囲から歓声が聞こえるのは嘘じゃない。
こうして、わたしは兄ではなく弟の方と結婚式を挙げて、無事に式を済ませた。
「京香さん」
「な~に~」
ハネムーン先で(お金がもったいない理由)誠治くんとふたりになり、わたしは脱力していた。
数時間前までは、最悪だ…この世の終わりだと思っていたのに、今は天国にいる。
「結婚式前に言っていたこと」
「あぁ、なんでも言うこと聞くだっけ? なに?」
ベッドでくつろぐわたしに誠治くんが、ベッドの端に座って、ジャケットの懐から一枚の紙を出した。
「これにサインして」
「はいはい」
呑気に言って拾い上げた紙を見やって、わたしは叫んだ。
「婚姻届!」
「サイン」
「せ、せいじくん落ち着こう」
「落ち着くのは京香さんの方」
躙り寄る誠治くんから逃がれるために、ベッドから降りようとした時、
ドン。
誠治くんの両腕で囲まれました。
「俺の理性が動いてる、今、サインして」
「り、理性って」
「好きでもない奴と結婚式挙げるほど、俺は馬鹿じゃない」
どんどん誠治くんが近づいてきて、唇と唇が触れる寸前のところで言われた。
「サインは?」
貞操の危機と「する!する!サインする!」と、腕をどけてくれた誠治くんからスルリと逃げ出して、誠治くんが渡してくれたペンを持って超スピードで必要事項を書いた。
他の必要事項は既に埋められている。
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