サヨナラ

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「久しぶり」 照れくさそうに彼は微笑んだ。 目元のほくろがなんだか懐かしく感じる。 「………智志さん………」 そう。 そこにいたのは智志さんだった。 「ごめん、連絡もせず突然来て。  いなかったら帰るつもりだったんだけど………」 呆然としたまま智志さんを見つめる私に、智志さんは少し困ったように頭の後ろに手を回した。 「いや、その、えっと、あ、そうだった!  ただお土産を渡したくて」 そう言って智志さんは私に紙袋を差し出した。 何かアルファベッドが綴られているその紙袋を反射的に受け取った。 「実は俺、この前までブラジルに行ってたんだ」 紙袋の中身を覗き込めば、可愛らしい箱が2つあった。 いや、ブラジルに行ってたのは悦子さんに聞いて知ってるけど………。 でも、何故、今更私にお土産を? 私、智志さんに振られたんだよね? 私たちもう、友達でもなくなったんだよね? 桜の結婚式の後、電車の中で告げられた智志さんの別れの言葉を思い出した。 あれからもう2ヶ月ほど経とうとしているのに………。 この状況をどう受け止めていいのか、脳内整理が追い付かない。 「向こうのチョコレートとマテ茶なんだけど。  千咲、こういうの好きかなぁって思って………」 だんだんと尻すぼみに声が小さくなっていく。 智志さんはそこまで言うと、小さく溜息を吐いた。 「………やっぱり迷惑、だったよね。  でも、これはお願いだから受け取って。  千咲に買ってきたお土産だから」 がっくりと肩を下げ、智志さんは一歩後ずさった。 「ごめん。  ただ千咲の顔が見たかっただけなんだ。  女々しいよな、俺。  じゃ、じゃあ、俺はこれで………」 頭の中が飽和状態で呆然としたままの私に困り果てたらしい智志さんは、踵を返そうとした。 「ま、待って!」 私は思わず背を向けた智志さんを引き留めてしまった。   「あの、良かったら───」
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