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「美味いっ!」
私の目の前に座った智志さんが、口いっぱいにかつ丼を頬張った口元を押さえながら歓喜の声を上げた。
『良かったら、かつ丼、食べていきませんか?』
思わずそう言って智志さんを引き留めてしまった。
それは、つい最近まで好きだったことを思い出したとか、また好きだった気持ちに火が付いた、とかそういうのじゃなくて。
お土産のお礼をしたかったのと───
ただ、寂しかったから。
一人で寂しくご飯を食べるより、こうやって嬉しそうに食べてくれる人がいる方が気も紛れる。
「マジ、美味いよ!」
「ふふふ、ありがとう。
さっそくもらったマテ茶淹れてみるね」
相手は玲央さんじゃないけれど、それでも一人でこの部屋にいるよりはよっぽどいい。
私の作ったかつ丼を一心不乱にかき込む智志さんを横目に、私はお茶を入れるためにキッチンへと向かった。
良かった。
玲央さんの分のかつ丼、無駄にせずに済んだな。
しかもあんなに喜んで食べてくれて、私も嬉しい。
これで私も踏ん切りがついた。
もう、この部屋に訪れることはない玲央さんのためにご飯を作るのはもうやめよう。
ヤカンに火をかけ、智志さんに気付かれないよう小さく溜息を吐いた。
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