サヨナラ

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智志さんはゲイじゃない!? それって、それって、恋愛対象は普通に女性だってこと? それじゃ………私、ずっと勘違いしていたってこと………? 「俺はゲイじゃない。  恋愛対象は女性だし、それは千咲だよ」 「・・・・・・」 智志さんの発言に、ただ目をパチクリ。 恋愛対象は女性、それは私………? 頭の中がパニくる私の右手を智志さんが掴んだ。 「ねぇ千咲。  さっき『私、智志さんのこと好きだったんだよ』って言ったよね?  じゃあ、あの時俺たちはお互い想い合ってたってこと?」 あ………そうだ私、勢い余って“好きだった”って言っちゃったんだった。 「だったらもう一度俺たちやり直せないかな?  変な誤解もきちんと話し合って、今まで言えなかったお互いの言葉も伝え合って、もう一度、最初から………」 智志さんは私の右手を両手で掴むと懇願するようにそう言った。 「俺は今でも千咲の事好きだよ。  こんなに人を好きになったのは久しぶりで、気持ちだけ先走ってしまったけど。  千咲が俺との結婚について考え直してくれれば、嬉しい」 智志さんとの結婚………? つい2か月ほど前まで智志さんのことは好きだったけれど。 でも、もう今は智志さんとの未来は考えられない。 玲央さんと音信不通になったのに、未だ私は玲央さんのことを諦めきれないから………。 「………ごめんなさい。  もう、智志さんとの結婚は考えられない………」 「どうして?」 泣きそうな表情で私を見つめる智志さんに、なんと言って伝えればいいのか考える。 でも、嘘や誤魔化しはしたくない。 「あのね………私、好きな人ができたの」 「え………」 「ごめんなさい」 ショックを受けて黙り込んでしまった智志さんに私もどうしていいのか分からずに智志さんの様子を伺った。 自分でもこんな短期間で好きな人が変わってしまうなんて戸惑っているんだから、智志さんはなおさらそうなんだろう。 暫く呆けていた智志さんは何か思いついたように、ハッとして私の方を見た。 「それってまさか………」 智志さんがそう口を開いた時─── ───ガチャ、キー 玄関のドアが開錠され、開く音が聞こえた。
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