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その音に智志さんもそちらを見た。
まさか………!?
あまりのタイミングの悪さに私の体が強張った。
「───千咲………?」
遠慮がちに私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
そうして姿を現したのは、やっぱり予想通りの人で………。
「玲央っ!!」
先に声を上げたのは智志さんの方だった。
「智志………」
玲央さんはジッと智志さんを見つめた後、ブラジル土産の置かれたテーブルの上に視線を落とし、そして私を見た。
「れ、玲央さん………」
1週間ぶりに見る玲央さんはどこかやつれたような感じがした。
少し頬がこけ、服装もいつものパリッと感がない。
逢いたくてしかたのなかった玲央さんの姿に驚きつつも、ようやく顔が見れたことで胸が一杯になる。
けれど、久しぶりの再会だというのに、ピリピリとした緊張感が部屋中に漂っていた。
「やっぱり千咲の好きな人って………」
智志さんは私を見ると、悔しそうに眉根を寄せた。
玲央さんの手にはうちの合鍵があることに智志さんは気付いているようだ。
「………玲央、なんだな」
艶やかな黒髪が項垂れた智志さんの顔を隠す。
「あ、あの、智志さん………」
彼の名を呼べば顔を上げる。
いつもの智志さんの柔らかいオーラが冷たく歪んだような気がした。
智志さんはゆっくりと立ち上がると、キッと玲央さんを睨みつけた。
「どうしてお前はいつも………!
俺の好きな女を横取りするんだよっ!!」
玲央さんに対し怒りをぶつける智志さん。
今まで見たことのない智志さんのその姿に私の体が震えた。
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