プロローグ

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『智志さんと、お別れ、した』 電話越しに千咲が震える声でそう言った。 実際、千咲の口から出た言葉ではあったが、にわかには信じがたい。 なにせ、あの二人はどこからどう見ても相思相愛。 智志においてはあの地味女を溺愛しているようだった。 それが、『お別れした』だと? 「───玲央先生?急いでください!」 看護師に声をかけられハッとする。 仕事中であったことを思い出し、気合を入れ直す。 とりあえず、智志と千咲の件は後回しだ。 ただ、考えずとも得られた答えは一つだけ。 あのアホ女の………勘違いだ。 「あ、あぁ、悪い。すぐ行く」 俺はどこかホッとした気持ちで患者の元へ急いだ。 ただ、それが─── 智志が誰かのモノにならなかった からなのか、 千咲が智志のモノにならなかった からなのか。 どちらの意味での安堵なのか………。 今の俺には分からずにいた。
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