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「………何半笑いでブツブツ言ってるの?」
不意に振り返った千咲が、ジト目で俺を見ていた。
千咲の手元にはもう料理が作り終わっていて、皿には焼きそばが盛られていた。
それを見て改めて空腹を感じた。
「簡単過ぎて、申し訳ないけど………。
買い物も行ってなくて冷蔵庫になんにもないし、焼きそば一品のみでごめんね」
自分のせいで外食するほどの時間がなくなったのを反省しているのか、千咲は申し訳なさそうに皿を俺に差し出した。
「これだけあれば十分」
置かれた箸を手に取り、小さくいただきますをしてからそれを口に運んだ。
この焼きそばは市販のものかもしれないが、いつも千咲の料理は俺の好きな味のど真ん中だ。
「普通にうまい」
「良かった」
それだけ確認すると、千咲も食事を始めた。
ここのとこ仕事が忙しく、味気ない食事ばかりだった。
カップ麺、コンビニ弁当、よくて病院の食堂。
あとは高級レストランで食事を数回したか………。
しかし、どんな有名なシェフが腕を振るった料理よりも、千咲が10分そこらで作った物の方がよっぽど美味いと思う。
現に、千咲の飯が食いたくてふらりとこの部屋を訪れてしまったほどだ。
「今夜は帰るの?」
伺うようにジッと俺を見てくる千咲に、「帰らない」と嫌がらせを言いたくもなったが………
「今夜は帰る」
俺の言葉にあからさまにホッとした表情をして見せる千咲にちょっとイラつくが、明日も朝から仕事だ。
もう一泊してここから出勤するという手もあるが………さすがに2日続けて外泊するのは何かとまずい。
「淋しいからって、誰かれかまわず部屋に誘ったりするなよ」
「しません!」
「さっきの同僚君に誘われても断れよ」
「もう、誘いには乗りません!
今日だってただ送ってもらっただけだし………あんなことになるとは思ってなかったし………」
語尾がゴニョゴニョと聞きづらいが、反省しているのは見て取れた。
「どうしても淋しいなら、シズカのとこにでも行け。
シズカも………お前が来ないと淋しいって言ってた」
千咲は少し淋しげに笑って頷いた。
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