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「じゃあ、しっかり鍵して寝ろよ」
食事も終わって俺はこの部屋を出ることにした。
自宅に戻るのは………気が重いが。
「玲央さん、お母さんみたい。
大丈夫。もう、一人暮らし歴も長いんだよ、私」
クスクス笑っている千咲。
「玲央さんこそ、仕事大変だろうけど頑張ってね。
そうそう、前もって連絡くれればちゃんとしたご飯も準備しておくから。
いきなり来るの、いい加減やめてよね」
ジッとこっちを睨んでくるので、思わず手を伸ばした。
そして千咲の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ちょ、やめてよ~!」
こいつの髪もなんていうか、手触りがいい。
サラリと柔らかい髪に手を離すのが惜しくなる………。
は?
惜しくなる??
ちょっと奇妙な感覚に囚われ、俺は慌てて千咲の頭から手を離した。
「………また来る」
「はいはい、気を付けて~」
そのまま振り返ることもせず俺は千咲の部屋を出た。
なんだ、この身体の中にある得体のしれないモヤモヤは。
さっき千咲を触った右手をジッと凝視する。
あれか………?
手触りのいいぬいぐるみみたいなものか………?
そう考えつくも、どこかしっくりしないまま俺は車に乗り込んだ。
俺はゲイだ。
智志のお手付きでもない女には全くを持って欲情しない。
千咲だって、智志とはそういう関係にはなっていないと言っていたが………。
あいつといると、気が抜けるというか、居心地がいい。
気を張らずにいられる場所は、あそこだけ。千咲の部屋だけだ。
不思議な感情が俺の中に芽生えていた。
あの地味女なんて、性の対象にはならない。
ただ、作る飯が美味いだけの女だ。
あの同僚君とどうなろうが、俺には関係ないはずなのに………あの時俺は何故口をはさんだりしたんだろう。
俺と千咲の関係。
即答できなかった俺らの関係。
このあやふやな関係に、どんな名前を付けたらいいのだろうか。
「って………なに真面目に考えてんだ、俺」
頭を軽く振って良く分からない感情を振り払う。
よくよく考えてみれば、ただ俺はあいつに世話を焼いただけだ。
深い意味はない。
それに俺は………
「どうせもう………結婚するんだ」
もう、なにもかも、どうでもいい。
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