3人が本棚に入れています
本棚に追加
「オクポクポクポク」木魚の音って間抜けな感じがするけどお寺だとなんとなくしっくりとくる。
緑町に住む健作おじさんが脳出血で病院に運ばれた事を知ったのは7月の第2週の水曜日だった。あっさり金曜日に亡くなったとおばから連絡があり、通夜、告別式が執り行われると電話があった。その時はこの暑いのに迷惑だなと不謹慎に思っただけだった。
おじはまだ61才で急死にも関わらず場が明るいのは飲んべえで能天気な人だったのと、我が一族の家風だろう。
おじは噂話が好きで酒癖と女癖が悪く、その手のエピソードに事欠かなかった。かわいそうだから、おじの良い話でもしようかと思ったが思いつかなかった。それでも通夜はつつがなく進行し、遺影には本人が好きな日本酒と趣味だったパチンコの玉が小皿の上に盛られていた。通夜の席上では数少ない若い女性である私にちょっかいを出してくる輩も何人かいたが適当にあしらって早く終わらないかなとそれしか考えていなかった。
やっと、深夜になりぽつぽつとみんな帰りだした。その時突然、おじの飲み仲間だった金物屋の西本さんが言った。
「あれ、健ちゃんの酒がないぞ」
「本当だ」
見ると遺影の前に置いてあった日本酒がなくなっていた。
「おいおい、誰だ勝手に持って行ったのは。健ちゃん怒るぞ」
みんなで探したが見つからないのでみんなあきらめて帰っていった。
近所の人が帰ったあと残ったのは近しい親族だけだった。後片付けのあと母と父でなんとなく座って話し込んだ。
「やあ、やっと終わったな」
父は一服しながらくつろいだ。
「父さんたら、明日も残ってるし今日も煙草吸ってただけでしょ。ちゃんとしてよ」
母は明日の牽制の意味もあって少したしなめた。
最初のコメントを投稿しよう!