日常を夢見て

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 刺される痛みに顔をしかめ、自分が痛い理由を知ると子供は癇癪(かんしゃく)を起こした。振り払った手には、小さな小さな蟻が一匹。  まあるいほっぺたを膨らませ、水を地面にざばざばと落としていく。バケツから引っくり返された大雨は、小さな穴にどんどん吸い込まれていった。  泥で濁りきった水たまりができる様子を眺めながら、子供はつまらなさそうに欠伸を零す。  小さな穴がなんなのかわからないまま、子供はじいっと水で見えなくなった地面をしゃがんで観察する。母親が呼びに来るまで、子供はただひたすら水に濡れ浸る地面を見つめ続けた。  子供の暇潰しは、今日も気まぐれに唐突に起きてなんでもない日常が流れていく。空は眩しいほどの快晴だ。地面の大雨など嘘のように、晴れ渡っていた。
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