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唐突な始まりは、日常を粉々に砕いた。希望なんて見当たらない恐ろしい現実に、響き渡るのは怒声と悲鳴だけ――……。
どうにもできない天災がある。気まぐれに引き起こされる人災もある。どちらも力のない彼には止めることができない現象だ。
ひくり、と喉を引きつらせた彼は目の前に迫り来る出来事に目を見開いた。そらしたいのに、そらすこともできずに目が痛くなるほど凝視した。
世界が壊れていく。
ぼろぼろと壊れて、流れていく。
(最悪だ……この世の終わりだ……)
とても簡単に壊れていく様子は、信じられなかった。母親の呼び声に応えて走り出した足は、重くて意識はどこか遠くにある。嘘みたいな現実は、悪夢を見せられているようだ。
祈る声はどこにも届かない。神様がいるならば、こんなひどいことにはならなかったはずだ。そう思うのは、身勝手だとわかっているのに、神様へ文句を言いたくなる。
降りしきる雨は、大粒すぎてまるでダムが決壊したかのよう。粒とは言えない激流に、冷えた体を震わせた。寒さだけではなく、恐ろしさで竦んでしまいそうになる。目の前は真っ暗に染まった。
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