日常を夢見て

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「女王様は無事だ。きっと、大丈夫だ」  壊れた日常を取り戻すために、前に進むための希望が必要だ。男が声高に口にすれば、周囲はほっと息を吐く。  安堵する周囲の大人たちには、恐ろしい現実は受け入れるべきことなのでたろう。しかし、はじめて目にした悲劇にガタガタ震える子供たちにとっては、そんな言葉だけで安心などできなかった。  女王が生きてさえいれば、やり直せると思えるのは、自分の命が軽いからだ。女王を守ることが何よりも大切で、そのためなら自らの命を躊躇わずに捨ててしまう。それが誇りであり、誉れだ。  大人の言葉に、いまだ幼い者は理解できず、目の前に横たわる絶望に泣き叫ぶ。止まない滝のような雨に負けず、重い頭を動かしてひとりが顔を上げた。 「こんなの、納得できない!」  少年の声に、周囲は訝しげな視線を向ける。自分たちにはどうしようもない現実なら、納得できずとも受け入れなければならないのだ。文句を口にしても意味などない。  そんな諦めさえ滲む空気に、少年は「なんで、おかしいよ」と言葉を続ける。  日常が簡単に壊れていくことを当たり前のように感じたくない。遊び場は消え去り、思い出の地が破壊される。受け止めたくない現実だ。文句を言ってもおかしくない。
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