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「だって、人災じゃないか!」
気まぐれに起こされた勝手な悪戯。
悪いことなんて思わず、躊躇いもなく行われた人災。
「天災はいやだ。どうにもできなくても、人災はもっといやだ」
走り出した彼を引き止める声が響く。母親の悲痛な叫びが混じった制止の声を振り払って、彼はこの甚大な被害を引き起こした相手の場所へと駆けていく。
少年が願ったのは、変わらない日常だ。
壊れることなく、続いていく日々が好きだ。
気まぐれに壊されるなどたまったものではない。我慢できない怒りを胸に、今まで続いてきた大事に思うことがなかった当たり前の日々を脳裏に浮かべる。
壊れる前に戻りたい、と願ってしまう。こんなことになるなんて知っていたら、もっと毎日を大事に噛みしめていた。できることなら、悪夢が始まる前に止める術はないかと探すだろう。戻らない日常を夢見て、激情を胸に足を動かす。
物分りのいい、諦めきった大人になんてなりたくはない。天災ではないとわかった瞬間に、自分の世界を粉々にした相手が憎らしかった。
「お前がっ! お前のせいで、壊れたんだ。ぼくの世界は終わったんだ!」
見つけた相手に、怒りを向けて少年は牙を剥く。怒りと悲しみを抱き、相手に向かう彼の背後で泣き叫ぶ母の声が遠く木霊した。
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