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「とりあえず歩くぞ。
時間が惜しい」
「はい!」
俺が進行方向へ振り向き、歩き出すと、人質は元気に返事をし、俺の隣を歩く。
人質は軽い足取りで、透明なケースに入った水飴を空へと持ち上げ、太陽に透かせて暫く七色の色彩を満喫すると、店主に一緒に渡されたであろう木の棒を、水飴へと刺して練り始めた。
初めは、少し粘り気のある液体のような感じだったが、練り続けるに連れ、少しづつ硬化していくのが見てても分かる。
水飴自体、初めてお目に掛かったが、どうやら日本での情報通りの食べ物のようだ。
「ふう……」
人質は暫くかき混ぜたのち、木の棒を離し、一息つく。
木の棒の先には、マーブルの固形の飴が出来上がっていて、人質は額から落ちる汗を拭い、木の棒を再び手に持つと、目を輝かせながら出来上がったそれを眺め、そして、ゆっくりとそれを唇の手前まで持ってゆき、パクリと口の中へと含んだ。
「ふんむぅ~……」
喉を鳴らし、鼻から空気が吹き抜ける。
人質の目頭は下りに下がり、幸せそうに雲1つ無い真っ青な空を仰ぐ。
空を笑顔でずっと見上げているその様は、まるで虹でも見ているのかのような立ち姿である。
端から見れば、変な人である。
「虹が見える……」
人質は口の中から飴を取り出すと、目を見開き、空を見上げたまま、そう呟く。
幻覚症状を引き起こしているようだ。
だからと言って、魔法にかけられていたり、病気だったり、毒が仕込まれていたりしている訳では無い。
人質には、常人には見る事の出来ない、何かが見えているようだ。
まるでグルメマンガの登場人物のように。
「凄い……こんなのって……」
人質は、飴の味の余韻が終わると、我に帰り、目を見開きながら飴を見つめる。
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