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「ぐぅっ」
俺はそれをまともに喰らい、人質の脇から手を抜くと、腹部を押さえてよろめきながら、数歩後ろに後退する。
近付き過ぎていた為、避けきれなかった。
「はにゃあ……」
人質は俺の手から解放されると、力が入らないのか、ペタリと地面へと座り込む。
両脇を押さえ、顔を真っ赤にさせながら、肩で呼吸を繰り返す。
「なっ、なに、するん、ですか……」
人質は瞳に涙を浮かべ、俺の事を睨み付けながら、途切れ途切れでそう言ってくる。
「笑わせようと思ってな」
「なんで笑わせる必要があったん……むぐぅ?!」
俺は即座に人質へと詰め寄り、再び口を手で塞ぐ。
「んむぅー!!むぐぅーー!!」
怒っているのは分かるが、今はそれどころではない。
兵士のおじさんが、申し訳なさそうに此方に向かって来ているのだ。
敬語を使っているのが聞かれれば、不審がられてしまう。
「どうした」
俺は近付いてきた兵士にそう尋ねた。
兵士はバツが悪そうに視線を下に降ろすが、すぐに首を左右振り、下唇を噛みながら、覚悟を決めた目つきで俺と目を合わせる。
「あ゛の゛……」
掠れる兵士の声。
首を絞められた時に、一緒に声帯もやられたのだろう。
これでは聞き取れないかも知れない。
「こっちに来て貰ってもいいか」
俺がそう言うと、兵士は開いた口をゆっくりと閉じ、覚悟を決めたような、神妙な面持ちで俺へと1歩1歩近付いて来る。
左手は人質の口を塞いでいるので、近付いて来る兵士に対し、右手を動かして首へと人差し指を突き立てた。
兵士は首に触れられると、目を力強く閉じ、上を向く。
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