人類最強になれなかった男

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「もういいぞ」 声帯が腫れていた程度だったので、治療は一瞬で終了。 俺はゆっくりと手を降ろすと、兵士が目を開くのを待つ。 「むうぐうぅぅううううううううううう!!! ふんむぐうぅぅううううううううううう!!!」 つもりでいたが、まずは人質を宥めなければ。 「敬語、設定忘れるな」 俺は外にいた時と同様に、頭に直接声を送る。 「むう!」 「わかった」と言っているのだろうか。 強く声を出すと、俺を睨み付ける。 そうこうしてる間に、兵士は顔を下ろし、ゆっくりと目を開く。 「どうだ」 俺にそう言われ、兵士は首を傾げ、自分の身体を見回す。 何をしているのだろう。 治療したのは声帯なのだから、声を出さねばわからないだろ。 俺はそう思いつつ、無言で自分の身体弄る兵士をただ見つめる。 暫くすると、兵士は申し訳なさそうに俺の方を向き、ゆっくりと口を開いた。 「あの……」 口から声を出した瞬間、兵士は驚いて手で自分の喉に触れる。 治されたと思っていなかったのか。 俺が男児を治したのは見ていた筈だが。 「あ、え……何故……」 兵士は目を開き、戸惑い、悲しげな表情でそう尋ねてくる。 「何が何故なんだ。 治したらいけなかったのか」 そんな決まり、ネイト国には無かった筈だが。 「い、いえ、そうではなくて……。 何故私を治療してくれたのかと……」 「聞き取り辛かったからだが」 「聞き取り辛いも何も、貴方は今から私を倒すのですよね? それなのに何故治療をしたのです?」 兵士の言葉から、少し怒りを感じ取れる。 何故俺が兵士を倒さねばいけない。 兵士が俺に何かしたと言うのであれば、話は別だが。
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