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「貴方が俺に何かした事でもあるのか」
「したじゃないですか」
兵士は悔しそうに歯を食い縛り、ギリリと音を鳴らす。
「私がもっとしっかりしていれば、奥様を取られずに済んだのです。
しかもお子様の目の前で……。
楽しみで帰省して来て下さった方々に、こんな仕打ち……。
ああ……私は何て事を……」
甲冑の関節部分が兵士を責め立てるかの如く、大きな音を立てて軋めく。
ただの感違いのようだ。
まあ、感違いと言っても、あの時サキュバスは俺に分かるように伝えてきていたので、兵士の反応はしょうがないと言える。
体調が治っても中々近付いて来なかったり、覚悟を決めた表情をしていたのはその為か。
俺が奥さんを取られた怒りで、暴れると考えていたのだろう。
「あれは演技だ。
お母さんはミーシャの為に、ワザとあの男に着いていったんだ」
「……はい?」
兵士は、体内で渦巻いていた複数の負の感情を、口から全て吐き出すと、そのまま唖然と此方を見つめてくる。
「……あれは演技だ。
お母さんはミーシャの為に……」
「えあ、すいません。
聞こえなかった訳ではないです」
違うのか。
「ですが、その事が本当だとしたら、何故お子さんは怒っていらっしゃるのですか?
私に対してではないのですか?」
俺は人質の顔を覗き込む。
頬を膨らまし、明らかに俺の事を睨んでいる。
これを見て、どうして自分が怒られていると感違い出来る。
「ミーシャが怒っているのは、また別の事だ。
という訳で、俺とミーシャは出店を探索して来る。
帰る時にまた頼む」
「え?あ、はい。お任せ下さい。
アイツが奥様に何かしようものなら、私が全力で止めます故、お祭りを存分に楽しんで下さい。
それと、喉治して頂きありがとうございました」
兵士は手を伸ばし、額に触れるか触れないか位の距離で、斜めに手を構え、敬礼のポーズをとる。
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