人類最強になれなかった男

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「欲し……!!あ、う……。 べ、別に大丈夫! た、ただ見てただけだから」 「分かった。 じゃあ行こう」 「あ……」 人質は再び尻尾を地面に降ろすと、進行方向へ振り向こうとした俺に、切なげな表情をしながら手を伸ばしてくる。 結局どうしたいのか。 俺は振り向きを止めると、口を動かす。 「欲しいのか欲しく無いのか、どっちだ」 俺がそう尋ねると、人質は渋った表情で肩を震わす。 「欲しい……!!欲しいけど……。 メイドは自分の欲に負けては駄目だから。 自分を持っちゃ駄目だから……!!」 人質は辛そうに下唇を噛み締める。 そんな辛いなら、メイドをする必要は無いのでは。 そもそもを言うが、人質の欲しがっていた服がメイド服であっただけであって、俺は別に使用人になれと強制したわけでは無い。 全て人質が勝手に始めたことである。 俺は左ポケットから財布を取り出す。 「子供じゃないのか」 「買って来ます」 人質は俺の一言で理解したのか、財布を手のひらから奪い取り、目を輝かせ、尻尾を振り回しながら屋台へと走って行った。 その前に、人質がメイドと言った瞬間、四方八方から弓矢の如く送られてくる、鋭い視線をどうにかして欲しい。 「買って来ました!」 突き刺さる視線の中、暫く待っていると、人質は財布を脇に抱え、両手で2つの水飴擬きを持って来た。 2つも食べるのか。 しかし、両手が塞がっている状態で、どうやって食べるつもりなのだろうか。 人質は俺の前まで小走りで来ると、財布を挟んでいない方の腕を伸ばし、水飴擬きを俺に突き出してきた。 「はいこれ、お父さんの分!」 そう言いながら、無邪気な笑顔で尻尾を振り回す人質。 頼んだ覚えは無いのだが。
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