548人が本棚に入れています
本棚に追加
「欲し……!!あ、う……。
べ、別に大丈夫!
た、ただ見てただけだから」
「分かった。
じゃあ行こう」
「あ……」
人質は再び尻尾を地面に降ろすと、進行方向へ振り向こうとした俺に、切なげな表情をしながら手を伸ばしてくる。
結局どうしたいのか。
俺は振り向きを止めると、口を動かす。
「欲しいのか欲しく無いのか、どっちだ」
俺がそう尋ねると、人質は渋った表情で肩を震わす。
「欲しい……!!欲しいけど……。
メイドは自分の欲に負けては駄目だから。
自分を持っちゃ駄目だから……!!」
人質は辛そうに下唇を噛み締める。
そんな辛いなら、メイドをする必要は無いのでは。
そもそもを言うが、人質の欲しがっていた服がメイド服であっただけであって、俺は別に使用人になれと強制したわけでは無い。
全て人質が勝手に始めたことである。
俺は左ポケットから財布を取り出す。
「子供じゃないのか」
「買って来ます」
人質は俺の一言で理解したのか、財布を手のひらから奪い取り、目を輝かせ、尻尾を振り回しながら屋台へと走って行った。
その前に、人質がメイドと言った瞬間、四方八方から弓矢の如く送られてくる、鋭い視線をどうにかして欲しい。
「買って来ました!」
突き刺さる視線の中、暫く待っていると、人質は財布を脇に抱え、両手で2つの水飴擬きを持って来た。
2つも食べるのか。
しかし、両手が塞がっている状態で、どうやって食べるつもりなのだろうか。
人質は俺の前まで小走りで来ると、財布を挟んでいない方の腕を伸ばし、水飴擬きを俺に突き出してきた。
「はいこれ、お父さんの分!」
そう言いながら、無邪気な笑顔で尻尾を振り回す人質。
頼んだ覚えは無いのだが。
最初のコメントを投稿しよう!