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「ああ……」
俺はとりあえず水飴擬きを受け取ると、七色に反射するその物体を眺める。
どうやら、七色に光る果実があったり、魔法でそう見せているという訳では無いみたいで、純粋に、7つの果実を使い、色別に水飴を作り、それを断層のように重ねただけの物のようだ。
原材料も地球にある水飴とほぼ変わらず、擬きと言うより、これはもう水飴となんら遜色ない。
それに、危惧していた毒も、両方共に入っていないようだ。
「毒は入ってないぞ」
「当たり前ですよ!」
なんだ、毒の有無を確かめて欲しい訳ではなかったのか。
それに、当たり前ではないだろ。
もしかしたら此処は、敵の拠点の可能性があるのだから。
「そしたら何故俺の分も買ってきた。
毒味以外の理由があるのか」
「えっと、理由って言うかその……。
一緒に食べたいなぁーって……」
人質は下を向き、人間の耳を赤く染める。
「それになんの意味がある」
「い、意味はないけど……。
ただ、そういう事をしてみたいなぁーと思って……。
嫌……?」
人質は、獣の耳と尻尾を重力に従わせ、真下に落とす。
分かりやすく落ち込んでしまった。
これでは駄目だ。
「いや、分かった。一緒に食べる」
「ほんと?!」
人質はガバッと勢いよく顔を上げると、爛々と光り輝く期待一杯の瞳で、俺の事を見てくる。
「ああ」
俺は無機質にそう返事をする。
すると人質の表情は、光が舞うような満面の笑みを作り出し、尻尾を縦横無尽に振り回し始めた。
負の感情は人間の判断力を鈍らせる。
かと言って、浮かれ状態の判断力がいいという訳ではないが、下を向いていない分だけ、幾分かはマシだろう。
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