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「やっぱり、なんだかんだお父さんも、あの男の子のこと心配なんですね」
人質は「ふふふ」と静かに笑う。
何のことかわからんが、俺は男児の父親に聞きたい事があるだけだ。
この国が大好きだったであろう人間が、たった1日で嫌になったその理由をな。
俺は手に持っていた飴を口に咥えると、頭を巡らせる。
国自体が嫌いになるという事は、個人や団体とかでは無く、国ぐるみの何かという事に間違いはなさそうだ。
そうなってくると、今回の裏切り者の魔族の件とは別と考えるのが濃厚。
人と魔族は分かり合えない。
この世界では、そう古くから言われてきた筈だ。
しかし、その魔族がもし魔族の特徴である、禍々しい尻尾や翼を隠す術を持っていたのなら、話は変わってくる。
そうで無くとも、何かしらの情報や弱みに付け込み、無理やり人間を従わせてる可能性も大いにあり得る。
今の時点でその可能性が極めて低かろうと、調べるに越した事はない。
例えそれが無駄足だったとしても、また1からという訳ではない。
今日見つけた、裏切り者の魔族に繋がるであろう道の1つを失うだけだ。
例えそれが駄目でも、まだ道は3つ残っている。
「着いた」
俺は飴を食べ終えて、ゴミへと成り果てた木の棒を口から取り出すと、首を右へと捻る。
そこには、数え切れぬ程の果物と野菜が、木箱や木の板などを使い、種類毎に露見されており、とても大人が書いたとは思えない不格好な文字で、所々に数字が羅列されていた。
「八百屋さんですね」
「そうだな」
仕事を辞めたと聞いていたから、普通の民家を想像していたが、これは仕事を辞めたと言うより、職を変えたと言った方が正しいな。
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